温泉と聞くと日本の温泉地をイメージすることでしょう。人によっては日本でしか温泉は無いと思っている方もいるかもしれません。実は世界各地に温泉はあり、当然ヨーロッパにも温泉はあります。スイス:ロイカーバード、フランス:ヴィシー、イギリス:バース、イタリア:バーニョ・ヴィニョーニ、アイスランド:ブルーラグーンなどが有名です。その中でも、ハンガリーの首都ブダペストは温泉の歴史が特に古い都市として知られています。この街には、驚くことに2000年以上前から温泉が湧き出していたのです。
【歴史が深いブダペストの温泉】
ブダペストの温泉の歴史は、ケルト人が作った集落から始まりました。彼らはこの土地を「アクインク」と名づけ、「豊富な水」を意味していたとされています。紀元1世紀にローマ帝国がこの地域を支配すると、温泉施設がさらに発展しました。ローマ人はアクインクムと名づけ、都市に軍隊を駐屯させ、温泉を利用して疲れを癒したのです。公共浴場や個人の浴場が作られ、当時の人々の生活に欠かせない場所となりました。
その後、ローマ帝国の崩壊とともに一時期忘れ去られたブダペストの温泉ですが、15世紀になると再び注目を浴びます。ハンガリーの王、マティアス・コルウィヌスは、王城からお気に入りの温泉まで屋根付きの通路を造らせてどんな天気でも温泉に通えるようにしました。また、トルコがハンガリーを支配していた16世紀から17世紀には、蒸し風呂や温水風呂が造られ、トルコ風の浴場が人気となりました。トルコ人は温泉の療養効果を信じており、温泉での入浴は彼らの社会生活に欠かせないものとなりました。
【今でも続く温泉文化】
1673年には、ブダペスト地域の温泉が「ヨーロッパ屈指のもの」と旅行記に紹介され、治療効果やその規模と美しさが称賛されました。19世紀にはサウナ文化が広がり、ブダペストの温泉にもサウナや蒸気室、水風呂が加わり、現在のような多彩な温浴施設が完成しました。ヨーロッパでも特に有名な温泉地として、今では世界中から観光客が訪れる人気スポットになっています。
【なぜ温泉が湧き出るのか?】
ブダペストには、123の温泉と400以上の鉱泉があり、毎日7000万リットルもの水が噴出しています。この豊富な温泉水は、地質が関係しています。ブダペストはドナウ川を挟んで、丘陵地帯のブダと平野地帯のペシュトに分かれています。昔、この地域は海の底にあり、長い年月をかけて堆積物が蓄積されて石灰岩や苦灰岩が形成されました。さらに、その下に粘土や砂などが積み重なっています。
雨水が地表の裂け目から地下深くにしみ込むと、地底のミネラル豊富な熱い岩に触れ、温められて高温・高圧の状態になります。そして勢いよく地表へ逆流し、地面の裂け目や井戸から噴き出しているのです。この特別な地質構造が、ブダペストやハンガリー全土に温泉が湧き出る理由です。ヨーロッパの温泉に訪れると、歴史の深さを感じながらリラックスできる特別な体験ができますね。