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フィラデルフィアの鐘が語る「自由」とは?―ひび割れに秘められたアメリカの歴史

 

アメリカの街・フィラデルフィアには、世界中の観光客が訪れる有名な鐘があります。名前は「自由の鐘(リバティベル)」。ひびの入ったその姿は、一度見ると忘れられません。でもこの鐘、最初から「自由の象徴」として作られたわけではないのです。長い歴史の中で、時代ごとに意味が変わってきました。この記事では、鐘の誕生から今日までをたどりながら、「自由の鐘」が今も語り続けるメッセージを考えてみましょう。


鐘の始まり:自由のためではなく、知らせのために

1751年、アメリカがまだイギリスの植民地だったころ、ペンシルベニアの議会が「新しい鐘を作ろう」と決めました。目的は議会の開始や大切な行事を知らせるため。ロンドンの工房で作られ、翌年フィラデルフィアに届きました。鐘には聖書の言葉が刻まれていました。

「すべての人に自由を告げ知らせなさい」――レビ記25章10節です。

この時点では、あくまで宗教的・儀式的な意味にすぎませんでした。ところが、鐘を試しに鳴らしたとき、すぐにひびが入ってしまいます。そのため地元の職人がもう一度溶かして作り直し、1753年に今の形が完成しました。


「自由の鐘」に変わったのはいつ?

では、どうしてこの鐘が「自由の鐘」と呼ばれるようになったのでしょうか。きっかけは19世紀に入ってからの社会の動きにあります。

当時のアメリカでは、奴隷制度をめぐって大きな対立がありました。黒人を奴隷として扱う制度に反対した人々は、「この鐘に刻まれた言葉こそ、すべての人に平等を告げるメッセージだ」と考えました。彼らはこの鐘を「リバティ・ベル(自由の鐘)」と呼び、自由と人権の象徴にしたのです。

やがてこの鐘は、奴隷解放だけでなく、女性の権利や平和運動など、さまざまな社会運動の象徴としても使われるようになりました。「自由」という言葉の意味が広がっていったのです。


有名な「ひび」はどうしてできた?

「自由の鐘」と聞くと、誰もが思い浮かべるのが大きなひび割れです。このひびにはちょっとしたドラマがあります。

最初のひびは、1750年代の鋳造のときに入ったものでしたが、修理されました。その後も少しずつ亀裂が広がり、1846年にジョージ・ワシントンの誕生日を祝って鳴らした際、ついに大きく割れてしまったのです。

鐘を修理するために穴をあけてひびの広がりを止めようとしましたが、逆に悪化してしまいました。以来、この鐘は音を鳴らすことができません。しかし、鳴らなくなったことで逆に「沈黙のメッセージ」を伝える存在になったとも言われます。

鐘のひびは、アメリカが掲げた理想と、現実の矛盾を象徴しているようです。国は「自由」をうたっていたのに、当時は奴隷制度があり、すべての人が平等だったわけではありません。鐘のひびは、「理想はあるけれど、まだ完璧ではない」という現実を映し出しているのです。


「自由の鐘」がたどった長い旅

この鐘は19世紀から20世紀にかけて、アメリカ国内を旅しました。南北戦争のころには、国の一体感を高めるために展示され、戦後も各地の博覧会などで「自由の象徴」として運ばれました。

そのたびに多くの人が鐘を見て、「この国の理想を忘れないようにしよう」と誓いました。しかし、旅を続けるうちに鐘はますますもろくなり、ついには壊れる危険があるため、フィラデルフィアに戻され、現在はガラス越しに静かに展示されています。


いま、この鐘が語ること

今日、「自由の鐘」は観光の名所であると同時に、深いメッセージを伝える存在でもあります。多くの人が鐘を見て、「アメリカは本当にすべての人に自由を与えているのか?」と考えます。

この鐘は、過去の輝かしい歴史をたたえるだけのものではありません。むしろ「まだやるべきことがある」と思い出させるものです。人種差別、格差、移民問題など、現代の社会にも“自由”が完全に実現されていないことを、この鐘は静かに訴えているようです。

また、この鐘のひびは「不完全なままでよい」というメッセージとしても受け取れます。人も社会も完璧ではないけれど、理想に向かって進み続けることが大切だということを、鐘が教えてくれているのです。


商業化という新たな問題

一方で、この鐘はあまりにも有名になりすぎたとも言えます。観光地のシンボル、企業のロゴ、土産物、テレビ番組――どこでも見かけます。その結果、本来の意味が薄れてしまっているという指摘もあります。

自由の鐘は「国の誇り」であると同時に、「理想と現実を見つめ直す鏡」であるはずです。もし商業的なマークとしてしか扱われないとしたら、それは鐘の本来の声を失わせることになってしまいます。


フィラデルフィアで鐘を見たら

もしあなたがフィラデルフィアを訪れることがあれば、リバティ・ベル・センターという施設でこの鐘を見ることができます。ガラスの展示室の中で、静かに佇む鐘は、周囲のざわめきとは対照的に、まるで「語りかけるように」そこにあります。

鐘の表面のひびをじっと見てみてください。その線の一つひとつに、アメリカという国が歩んできた歴史、人々の苦悩と希望が刻まれています。そして自分自身にも問いかけてみましょう。
「本当の自由とは何だろう?」と。


まとめ

フィラデルフィアの自由の鐘は、最初はただの議会用の鐘にすぎませんでした。しかし時代が進むにつれて、「自由」「平等」「正義」といった理想を象徴する存在になりました。

鐘のひび割れは、完璧ではない人間社会の姿を映し出しています。それでも、人々が理想を掲げて努力を続ける限り、この鐘の意味は消えることはありません。

「自由の鐘」は鳴らなくても、今も世界中の人々に響き続けています。
それは、「自由を宣べる声」は、形ではなく心から生まれるものだということを教えてくれるからです。

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