ここ数年、サウナは「整う」という言葉とともに社会現象になりました。テレビや雑誌では特集が組まれ、サウナをテーマにしたドラマまで登場。全国各地におしゃれなサウナ施設が次々オープンし、「サウナー」という言葉も定着しました。
しかし、2024年ごろから「以前ほどサウナに行かなくなった」「混んでいるのに満足度が下がった」といった声が聞かれるようになっています。ブームの頂点を過ぎたとも言われるサウナ。なぜ人気が落ちてきたのでしょうか？ その背景を、いくつかの視点から見ていきます。
1. 過熱しすぎたブームと「飽き」の到来
どんなブームにも「ピーク」と「飽き」はつきものです。サウナはここ5年ほどで一気に広まり、SNSでは「整った！」という投稿が溢れました。ところが、流行が一般化すると、「特別感」が薄れてしまいます。
かつては“知る人ぞ知る癒しの時間”だったサウナが、今では“誰でも行くもの”になり、刺激や新鮮さが失われたと感じる人も増えました。人は「非日常」を求めます。サウナが「日常化」した瞬間、その魅力は少しずつ薄れていったのです。
2. 混雑とマナー問題の増加
人気が高まった結果、施設の混雑も深刻化しました。
本来サウナは静かにリラックスする空間ですが、最近では会話が多かったり、スマートフォンを持ち込む人がいたり、マナーを守らない利用者も目立つようになりました。
特に都心部の施設では、週末になると待ち時間が発生するほど。せっかくリラックスしに来たのに、ストレスを感じて帰る人もいます。こうした「環境の悪化」は、リピーター離れを生む大きな要因になっています。
3. 「整う」という感覚の誤解と過剰演出
「整う」という言葉が一人歩きしたことも、ブームの減速につながっています。
本来、サウナは温冷交代によって自律神経を整える健康法のひとつ。しかし、SNSでは「整う＝特別な快感」「強烈な体験」というイメージが広がり、過度な期待を持つ人が増えました。
ところが実際には、体質やコンディションによって感じ方は人それぞれ。思ったほど「整わなかった」と落胆する人も多く、そのギャップが離脱を招いているのです。
また、派手な演出や“映え重視”の施設も増え、静けさを求める従来のファンからは「本来のサウナらしさが失われている」という不満も聞かれます。
4. 健康意識の変化とライフスタイルの多様化
コロナ禍以降、健康やウェルネスへの関心は高まりましたが、その方向性は変化しています。
近年では「運動×瞑想×栄養」といった総合的なセルフケアが注目され、サウナだけに頼らない健康法を選ぶ人が増えました。
また、時間の使い方にも変化があります。1～2時間をサウナに費やすより、短時間でリフレッシュできる「岩盤浴」「温冷シャワー」「ホットヨガ」などにシフトする人もいます。
生活リズムや働き方の多様化によって、サウナのように“まとまった時間を必要とする習慣”が合わなくなってきているのです。
5. 価格上昇とコスト意識の高まり
かつて銭湯料金で気軽に楽しめたサウナも、今では1回3,000円以上する施設が珍しくありません。
特に「プライベートサウナ」や「高級ロウリュ」などは、特別感がある一方でコストも高め。
物価が上がり、家計を意識する人が増えた今、「サウナは贅沢品」と感じる層も増えています。結果として、「行く頻度を減らす」「無料や安価なリフレッシュ法を選ぶ」といった動きが広がっています。
6. メディア露出の減少と情報の飽和
2021〜2023年にかけては、サウナ関連のドラマやバラエティ番組が相次ぎました。
しかし、ここ数年は同じような企画が増え、視聴者の興味も分散。SNSでも情報が飽和し、かつてのような「サウナ＝話題の中心」という勢いはなくなりました。
情報が増えすぎると、逆に選択が難しくなり、消費者の熱量も下がります。トレンドの波が一巡した今、静かな「次の段階」に入ったと言えるでしょう。
7. 新しい癒しの形が登場している
ブームが落ち着いた背景には、サウナ以外のリラクゼーション文化の台頭もあります。
キャンプ、サウナテント、コーヒー焙煎、瞑想、マインドフルネスなど、「自分のペースで心を整える」スタイルが人気です。
特に自然とのつながりを感じられるアウトドア系の活動は、サウナの“閉じた空間”とは対照的で、新鮮に感じる人も多いようです。
人々の癒しのニーズが多様化した結果、サウナ一極集中の時代は終わりつつあります。
8. それでもサウナは「終わらない」
こうして見ると、確かにサウナ人気はピークを過ぎたように見えます。
しかし、それは“流行としての熱狂”が落ち着いただけで、文化としてのサウナは根づき始めています。
かつての温泉ブームやヨガブームも、熱狂期を経て「生活の一部」として定着しました。サウナも同じように、派手さよりも“静かな継続”へと進化しているのです。
最近では、地域密着型の小さなサウナや、木の香りや水質にこだわる本格派施設が増えています。流行ではなく、“自分のペースで整う時間”を求める人々に支えられて、サウナ文化はこれからも息づいていくでしょう。
まとめ
サウナ人気が落ちてきた背景には、ブームの過熱、混雑、価格上昇、ライフスタイルの変化など、さまざまな要因があります。
しかし、それは「終わり」ではなく「成熟」の始まり。
サウナが本来持つ“静かな癒しの力”が、ようやく見直される時期に来ているのかもしれません。
一時の熱狂が過ぎた今こそ、サウナは「自分を見つめ直す場所」として、次の時代の形を模索しているのです。
