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なぜ日本には「バカンス休暇」がないのか?――働き方と文化の深い理由

ヨーロッパでは、夏になると街が少し静かになります。
カフェもレストランも「バカンス中」の札がかかり、家族や友人と海辺や山へ出かける人々。一方、日本の夏。真っ白なスーツを着て、汗を拭きながら電車に揺られるビジネスパーソン。同じ「先進国」なのに、なぜここまで違うのでしょうか。

今回は、「日本にバカンス休暇がない理由」を文化・経済・働き方の面から深く掘り下げてみます。


■ 「バカンス」と「有給休暇」は同じではない

まず、「バカンス休暇」という言葉を整理しておきましょう。
バカンスとは、単なる休みではなく、「長期的に休んで心身をリセットする文化」を指します。
フランスやイタリアでは、1カ月ほど仕事を離れて休むのが一般的です。それでも社会がちゃんと回るように仕組みができています。

一方、日本の「有給休暇」は制度としては存在しますが、実際に長期間まとめて取る人はごく少数です。統計を見ると、日本の有給消化率はおおよそ50%台。つまり、休む権利はあっても「使えない空気」があるのです。


■ 「休むことは悪いこと」という無言のプレッシャー

日本社会では、仕事への忠誠心が美徳とされてきました。
「人より早く出勤し、人より遅く帰る」ことが評価につながる時代が長く続いてきたのです。これは戦後の高度経済成長期、企業が家族のように結束して日本を立て直した時代の名残とも言えます。

その結果、「休む=怠ける」「同僚に迷惑をかける」という意識が根強く残りました。上司が休まないから部下も休めない。チーム全体が「誰かがいないと回らない」仕組みになっている職場が多く、休暇を取ること自体が「勇気のいる行為」になってしまっています。


■ 経済構造がつくる「長期休暇を取りにくい国」

日本企業の多くは、まだ「属人的な働き方」に依存しています。
つまり、一人ひとりが抱える仕事が非常に細かく、「その人にしか分からない業務」が山ほどあるのです。

ヨーロッパでは、同じチーム内で仕事を共有し、誰が休んでもカバーできる体制を整えるのが当たり前。一方の日本は、引き継ぎ資料も曖昧なまま、「とにかく自分でやり切る」文化が残っています。

また、日本のサービス業の比率が高いことも影響しています。
レストラン、ホテル、コンビニ、物流。こうした業界は「止められない」業務が多く、全員が同時に長期休暇を取るのは現実的に難しいのです。


■ 法制度の違いも大きい

フランスでは法律で「年間最低5週間の有給休暇」が義務づけられています。
しかも雇用主がそれを守らなければ罰則があります。対して日本は、「与えなければならない」規定はありますが、「取らせなければならない」強制力は最近まで弱かったのです。

2019年にようやく「年5日の有給取得義務化」が施行されましたが、それでもバカンスのように1カ月まとめて休む習慣には遠い現実があります。
制度よりも文化が先に動かないと、真の意味での「休みの権利」は定着しないのです。


■ 教育が育てた「がんばる美徳」

小さなころから「努力」「忍耐」「根性」といった言葉を聞いて育つ社会では、「休むこと」より「がんばること」が自然と優先されます。授業でも部活動でも、「頑張り抜く」ことが称賛され、「無理しない」「自分を大事にする」と言うと、どこか「弱い」と感じる空気がまだあります。

その延長線上にあるのが社会人生活。「会社に迷惑をかけない」「期待に応える」――そんな意識が、バカンス文化を根づかせにくくしています。


■ それでも変化は始まっている

コロナ禍を経て、働き方の価値観が少しずつ変わってきました。
リモートワークやフレックスタイムが広がり、「働く=会社にいること」ではなくなりつつあります。

また、「ワーケーション」という新しい形の休み方も注目されています。
これは「仕事」と「休暇」を組み合わせたもので、自然の中や地方で仕事をしながらリフレッシュするスタイルです。まだ始まったばかりの試みですが、日本らしい形で「バカンス的な生き方」を探る動きとも言えるでしょう。


■ 本当の意味で休むことの価値

長い休みを取ることは、単なる贅沢ではありません。休息は創造力を取り戻す時間であり、人間関係を深め、自分を見つめ直す大切な機会です。

ヨーロッパでは、バカンスが終わると人々がどこか明るくなり、新しいアイデアを持って職場に戻ってきます。
一方、日本では「休み明けに疲れが残る」と感じる人も多く、休むことに罪悪感がつきまとい、心からリラックスできていないからかもしれません。


■ 「バカンス」は夢ではない

もし、社会全体が「休むのは悪くない」と本気で思えるようになれば、
日本にもバカンス文化は根づくはずです。大切なのは制度を増やすことより、お互いを思いやる働き方を広めていくこと。

誰かが休む時、自然に「いってらっしゃい」と言える職場。そんな空気が少しずつ増えていけば、きっとこの国の働き方はもっと豊かに、そして人間らしく変わっていくでしょう。


「バカンス休暇がない日本」は、単に休みが少ない国ではありません。
それは、努力を尊ぶ文化がつくり出した、ある意味での「誇りの証」でもあります。
けれども、その誇りを大切にしながら、もっと自由に息をつける社会を築くことも、これからの日本にとって必要なものなのかもしれません。

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