
ある政治家は「核武装は安上がり」という言葉を述べました。確かに一度持ってしまえば強力な抑止力になる、という考えは一理あるように見えます。でも、本当にそうなのでしょうか。この記事では、日本が核を保有するまでにかかる年数や費用、国際条約からの脱退に伴うリスク、国内の配備先や住民感情、さらにメリットとデメリットを具体的に検証します。
1. 日本が核を保有できるなら、何年後?費用は?
日本は原子力技術やミサイル関連技術を持ち、必要な原料であるプルトニウムも備蓄しています。そのため、技術的には「その気になれば短期間で核兵器を作れる国」と評価されています。推定では、政治決断さえあれば数か月で小型核爆弾を作ることが可能だという見方もあります。より慎重な分析では、研究・実験・配備体制を整えるのに3〜5年ほどかかるとされています。
費用に関しては幅があります。1960年代の政府試算では当時の金額で5〜6億ドル、現在の価値では数千億円に相当します。現代なら技術基盤が整っている分、さらに効率的に作れるとも言われていますが、それでも数百億〜数千億円規模はかかると考えられます。つまり「戦闘機や空母を整備するよりは安い」というのが“安上がり”という表現の背景です。
2. NPTを脱退したら、アメリカや国際社会からの制裁は?
核不拡散条約(NPT)は、核兵器を新たに持つことを防ぐための国際的な枠組みです。条約自体には「自国の安全が重大に脅かされる場合、3か月前に通告すれば脱退できる」という条文があります。しかし、実際にそれを行えば日本は国際社会から厳しい非難と制裁を受けることは避けられません。
最大の問題はアメリカです。日本は米国の核の傘に守られてきた歴史があり、その同盟関係を自ら崩すことになります。結果として経済制裁や安全保障上の孤立が発生するでしょう。また、原子力発電の燃料供給や先端技術の共同研究が止まる可能性も高く、輸出産業や金融取引にも大きな影響が出ます。表面的な製造コストは安くても、経済的な損失は“計り知れないほど高額”になるというのが現実です。
3. どこに配備し、住民はどう反応するか
核兵器を持つ場合、保管・配備する場所が必要です。想定されるのは再処理施設の周辺や自衛隊の基地、あるいは島嶼部などですが、日本は人口密度が高く、どの場所を選んでも住民への心理的影響は避けられません。核実験をするにもどこで行うのかという問題もあります。
一部の人々は「抑止力として必要だ」と理解を示すかもしれませんが、多くの住民は「万が一の事故や標的になる不安」を強く感じるでしょう。被爆国である日本では核への忌避感が根強く、配備先をめぐって社会的な分断や抗議運動が起こる可能性が高いと考えられます。
4. 核保有のメリットとデメリット
核保有には確かに表向きの利点がありますが、その裏には膨大なリスクも潜んでいます。
メリット
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独自の抑止力を持ち、周辺国に対する防衛力を示せる
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アメリカの核の傘に頼らず、自主防衛を確立できる
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外交交渉で発言力が高まる可能性がある
デメリット
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国際的孤立と経済制裁による打撃
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核戦略や専門家の不足による運用上のリスク
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国内世論の分裂、社会不安の拡大
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アジアの軍拡競争を引き起こし、安全保障環境がむしろ悪化する恐れ
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核施設事故やテロの標的になる危険性
このように「核を持てば安全になる」とは単純に言えません。むしろリスクの方が大きいと指摘する専門家が多いのです。
5. 背景にある課題
日本の核保有議論は長い歴史を持ちます。冷戦期から「技術的には可能だが政治的に許されない」という状態が続いてきました。国内法では非核三原則があり、国際的にも被爆国としての責任が重くのしかかっています。一方で、中国や北朝鮮の核開発が進み、米国の信頼性が揺らぐ中、「議論だけでも必要だ」という声が強まっているのも事実です。
また、核を運用するには単に爆弾を作るだけでなく、効果的な抑止戦略や軍事ドクトリン、危機管理体制が必要です。現状の日本にはそうした政策基盤が十分に整っていないという根本的な問題もあります。
結論
「核保有は安上がりか」という問いに対しては、「製造コストそのものは他の軍事装備より安く見えるかもしれないが、国際的・経済的コストは圧倒的に高い」というのが実情です。つまり、表の計算だけでは安上がりに見えても、裏側の代償は日本全体にとって非常に重くのしかかるということです。
そのため、核を保有するのではなく、核シェアリングが現実的という意見があります。核シェアリングとは、「核を自前で持つ」のではなく「他国の核をシェアする」ことです。こちらの方がハードルは低いですが、被爆国であることや非核三原則があるため、実現には大きなハードルがあると言えるでしょう。