かつて、草原を自由に移動しながら暮らしていた遊牧民たち。彼らは、自然とともに生きる人々でした。しかし、ある変化が起こると、草原はただの平和な場所ではいられなくなります。
その変化とは――気候の変動です。
この記事では、「遊牧民は気候変動が起こると戦争してきたのか?」というテーマを通じて、自然と人間の歴史的な関わりを探っていきます。
草が育たない?それは生き残りの危機
遊牧民の生活は、家畜に頼る暮らしです。牛や羊、馬などを連れて、草が生えている場所を求めて移動します。草がなければ、家畜は生きていけません。つまり、草=命といってもいいほどです。
ところが、降雨量(雨の量)が減ると、草は育たなくなります。いわゆる干ばつです。こうした異常気象は、今も昔も周期的に起こっていました。
すると遊牧民たちは、やむをえず草が残っている南の地域へ移動しはじめます。
南にあったのは誰の土地?
南に向かうと、そこにはすでに定住している人々の社会がありました。たとえば、中国の王朝です。彼らは農業を中心とした文明を築き、倉庫に食料を蓄える技術を持っていました。
一方、遊牧民は食料を大量に保存する文化をあまり持ちません。家畜がいれば食べていける――そんな暮らしだったからです。
しかし、干ばつで家畜が育たなくなったとき、遊牧民は蓄えのある場所=定住民の都市や村を狙うようになります。
気候変動が引き金になった戦い
もちろん、すべての戦争が気候変動のせいだったとは言えません。ですが、気候の変化が「戦いのきっかけ」になったという見方は、専門家の間でも注目されています。
たとえば、紀元前2世紀ごろの中国では、匈奴(きょうど)という遊牧民族が勢力を強め、漢王朝とたびたび衝突しました。一説では、この時期に寒冷化や乾燥が進み、草原地帯が貧しくなっていたと考えられています。
つまり、気候変動 → 草が減る → 南へ移動 → 食料のある地域を求めて衝突という流れが、歴史のなかで何度も繰り返されたのです。
現代にも通じる「気候と争い」の関係
このように、遊牧民の戦いの背景には、自然の変化という見えにくい要因がありました。それは、現代にもつながるテーマです。
たとえば、現在も世界のいくつかの地域では、気候変動によって食料や水をめぐる争いが起こっています。遠い昔の話のようでいて、実はとても身近な問題なのです。
歴史は自然とともに動く
人間の歴史は、単なる戦いや偉人の物語ではありません。気候や自然環境の変化が、人々の行動や社会の形を大きく左右してきたのです。
「なぜ戦争が起きたのか?」という問いに対して、「気候が変わったから」という答えが出てくることもある――それが、私たちの知られざる歴史の一面です。
まとめ:自然は敵でも味方でもある
遊牧民は自然の中で生きていました。しかし、自然が厳しくなると、彼らは生き残るために戦わざるをえなかったのです。
もちろん、すべての戦争が気候変動のせいではありません。でも、「気候が人を動かし、争いを引き起こすこともある」ということを知ると、私たちは自然との向き合い方を少し見直すことができるかもしれません。