メキシコの首都はメキシコシティです。ラテンアメリカの中でもかなり巨大な都市です。しかしメキシコシティは、その立地がかなり厳しい条件下にある首都でもあるんです。どういう事でしょうか。
この都市が誕生した背景には、伝説に基づいた興味深いエピソードがあります。昔、メキシコの人々は神に新しい首都をどこに建てるべきかを問い、神は「サボテンの上に座り、蛇を食べる鷲が現れる場所」を示しました。運命的に、その場所はテスココ湖の近くでした。
驚くべきことに、当時の人々は高度な技術を駆使し、テスココ湖の中心に首都テノチティトランを築くことに成功しました。日本に例えるならば琵琶湖の中に都市を作った感じですね。当時としては、湖に囲まれた立地が防衛に適していたかもしれませんし、初期のメキシコシティがまだ小さな都市だった時代には大きな問題にはならなかったでしょう。
しかし、時が経つにつれて問題は顕在化していきます。1900年代初頭にはメキシコシティの人口は約50万人でしたが、現在では900万人以上が住んでいます。さらに、周辺の大都市圏を含めるとその数は2200万人にも達します。驚くべき都市の成長に伴い、かつてのテスココ湖は消え去り、その跡地に都市が広がりました。
しかし、この都市が抱える大きな課題の一つが、地盤沈下です。メキシコシティの多くの水は地下から汲み上げられており、その結果、都市全体が年間最大50センチメートルも沈下しています。この沈下は止まることなく、今後150年間でさらに30メートルも沈むと予測されています。地盤のもろさゆえに1985年や2017年のメキシコ地震では甚大な被害が生じています。
さらに、多くの地下水が使い果たされているため、都市の多くの地域では深刻な水不足が続いています。特に貧困層にとって、水の確保は常に課題であり、時には雨水を貯めて生活する必要があります。それにもかかわらず、メキシコシティは人々に新しい経済的なチャンスを提供し続けているため、都市は今も拡大を続けています。
ただし、水の問題が解決されたとしても、湖底に建設されたこの都市は地盤沈下のリスクから逃れることはできません。沈み続ける地盤は、建物やインフラに大きな負担をかけ、未来にわたってその安全性が懸念されるのです。このような条件下でメキシコシティが直面する課題は、今後も続いていくのでしょう。地震がある国だけに大きなリスクを抱えた都市なんですね。