皆さんは箱根登山鉄道に乗ったことはありますか。神奈川県の小田原駅から強羅駅までを結んでいる鉄道で、スイッチバックをしながら急こう配をゆっくり登っていく姿は、まさしく登山鉄道です。この鉄道では「あじさい電車」が走っています。沿線沿いにあじさいが1万株以上植えられていて、6,7月になると標高の低い場所から徐々に咲いていきます。夜もライトアップされるあじさいを見ることができます。
沿線にあじさいが植えられ、あじさい電車が走っていれば当然、観光目的のあじさいなんだろうと考えてしまいます。箱根登山鉄道に乗ったことのある人は分かると思いますが、電車は箱根の山を登るために、狭い谷を縫うように走っています。線路の両脇がすぐに斜面になっているので、決して眺望が良い路線とは言えません。そのため、少しでも景色を楽しんでもらうためにあじさいが一役買っているのです。
しかしあじさいが植えられた理由はほかにもあります。先ほども両脇がすぐに斜面と書きましたが、この斜面が時に運行を妨げてしまうことがあります。大雨が降った際には、土砂崩れを引き起こしてしまうのです。そうなると電車は不通になってしまいます。それを防ぐためにあじさいが植えられました。
あじさいは地中深くに根を張るので、斜面に植えることで土砂崩れを軽減させることができます。つまり「土留め」の役割としてあじさいが植えられていたのです。しかし、いつしか満開のあじさいが全国的に知られるようになり、多くの観光客の目を楽しませるようになったのです。
あじさいシーズンが近くなると、あじさいの下刈りやメンテナンスが施されます。1万株以上もありますので、大変な作業になりますが、そうした努力によってきれいなあじさいを私たちに見せてくれているのです。
箱根登山鉄道だけが土留めの役割としてあじさいを植えているわけではありません。京王線井の頭線の沿線にもあじさいが植えられています。その数は26,000株以上があると言われています。都内を走っているため無機質な景色になりがちですが、梅雨の時期だけはあじさいが咲き乱れ、普段とは違った鮮やかな景色を楽しませてくれます。でも、一番の目的は土留めですが…。
今回は、箱根登山鉄道の沿線に植えられたあじさいについて考えました。あじさいが景観のためだけではなく、土留めの役割もあることを知ったうえで乗るなら、また違った登山鉄道の旅ができるのではないでしょうか。