鳩は平和の象徴としてよく知られています。公園に行くとカワラバトやキジバトをよく見かけ、人間の生活圏に馴染んでいる鳥の一種です。ボーっとしていそうな鳩ですが、実は歴史上、戦争にも大きな役割を果たしてきた動物でもあります。戦争で使われてきた鳩のことを軍鳩と呼び、主に通信物を運んだことから伝書鳩とも呼ばれています。
鳩は特定の場所に帰る本能を持っています。そのため、鳩を使って遠く離れた場所にメッセージを届けることができます。これは電信や無線が発明される前の時代には非常に重要な通信手段でした。伝書鳩は人間に飼い慣らされており、訓練を施した後に戦争で用いられます。ですから公園にいるカワラバトを捕まえて利用しようとしても使い物になりません。途中で休憩したり、歩いたり、エサを食べたりと、速達性を重んじる状況下では使えないのです。
訓練された伝書鳩は、途中で陸地に降りたり、エサを探すことなく目的地に向かって飛び続けます。数百キロ飛び続けることができます。場合によっては千キロも飛ぶこともできるようです。しかし、距離が長くなるにつれて帰還率も下がり、力尽きたり、猛禽類に襲われるなど、鳩にとっても過酷な任務だったのです。
第一次世界大戦でフランス軍は72もの鳩小屋を保有していましたし、アメリカ軍やイギリス軍も伝書鳩を用いて情報のやりとりをしています。鳩は短時間で長距離を飛べるだけでなく、敵の銃撃や鷹などの天敵から逃れる能力も高かったため多くのメッセージを司令部に無事に届けました。そのような功績から、活躍した鳩に対して勲章や名誉称号などの栄誉を与えたこともあります。
第二次世界大戦の頃は無線通信が発達しましたが、それでもハトは重要な役割を果たしました。イギリスでは25万羽が軍鳩となっており、そのうち活躍が認められた軍鳩32羽にはディッキンメダル(イギリスの動物専用の勲章)が授与されています。日本軍でも伝書鳩が使われていました。戦後は次第に伝書鳩が使われなくなり、現在は遠隔地からの帰巣速度を競う「レース鳩」として形を変えています。
以上のように、鳩は平和の象徴でもある一方で、戦争に使われた歴史も持っています。しかし、それはハト自身が戦争を望んだわけではありません。ハトは人間の命令に従って、自分の能力を最大限に発揮しました。ハトは人間との絆を大切にし、忠誠心と勇気を示しました。ハトは戦争の悲惨さを訴えるだけでなく、人間の可能性をも示してくれたのです。ちなみに平和の象徴とされるのはあくまで「白い鳩」で、私達がよく見かける灰色や茶色の鳩ではないのです。