日本の紙幣には人物の肖像画が描かれています。でも日本のみならず、世界中の紙幣にも人物が描かれているのがほとんどです。なぜ動物や建物ではなく、人の顔が描かれているのでしょうか。
紙幣に人の顔が描かれているのは、人間の脳が顔を認識する能力に関係しています。脳は特定の顔や物体に反応するように特化しており、顔を見た瞬間に相手の外見を脳内で処理して、過去の記憶と結びつけて思い出そうとします。目や口や鼻の位置や、髭やほくろの位置など瞬時に見分けているのです。無意識に行っているんですね。そのため、紙幣に人の顔が描かれていることで、もし人物の顔が違っていたら違和感を覚えるということです。偽造防止の役に立っているのです。
でも、人物は誰でも良いというわけではありません。みんなが知っている人物でなければ見分けることができません。人物の選定基準としては、なるべく精密な写真・肖像画を手に入れられることなどが挙げられます。そのため、現在のお札に描かれている人物は、明治以降に活躍した人物から選ばれています。国語や歴史の授業で見た有名な人が選ばれているんですね。
紙幣に描かれている人物は、作家や学者など様々な分野で活躍した文化人で、紙幣に人の顔を描くことで、その人物の功績を称えるとともに、国民にその人物の精神や理念を伝えることができます。
2024年には新紙幣を発行するにあたり、人物が変更します。1万円札は福沢諭吉から渋沢栄一に、5千円札は樋口一葉から津田梅子に、千円札は野口英世から北里柴三郎に変更します。紙幣の歴史から見て、約20年ごとにデザインが刷新されているのです。ですから、2004年の20年前(1984年)には、1万円札には福沢諭吉、5千円札には新渡戸稲造、千円札には夏目漱石が採用されていたんです。20年スパンだったとは気が付かなかったですね。
紙幣に描かれている人物は、国の歴史や文化を反映しています。紙幣を見ることで、その国の特徴や価値観を知ることができます。紙幣は単なる通貨ではなく、国や地域のアイデンティティを表現するものでもあるのですね。
ちなみに、人物だけではなく動物も描かれていたことがあります。どんな動物かと言うと、ねずみ、いのしし、馬、にわとり、ハト、ライオン、鶴(タンチョウ)、キジの8種類が描かれてきました。加えて、想像上の動物である鳳凰(ほうほう)も何回か描かれています。でもメインは動物ではなくやはり人物となっています。